Special Issue

ハウス オブ ロータス 2023年春夏コレクションのテーマは「C’est joli! Paris – French Riviera」。今回Tシャツ3型のイラストレーションを、アートディレクター・グラフィックデザイナーとして活躍する藤田二郎さんが手がけてくださいました。

これまで多くのCDジャケットのデザインや書籍のアートディレクションだけでなく、百貨店、博物館、ホテルの空間デザインなど幅広い仕事をされている藤田さんに、デザインのこと、今回のハウス オブ ロータスとのコラボレーションのことのお話をうかがいました。
インドネシアスマトラ「スマトラの女」 / 藤田廣志
かれん 幅広いお仕事をなさっていらっしゃる藤田さんですが、お父様は画家でいらっしゃったのですね。

藤田 はい。父は藤田廣志といいまして、インドネシアのスマトラ島の絵を描き続けた洋画家でした。スマトラ島の生活に自ら踏み込んで行って、現地でデッサンを描き、日本に帰ってくるとアトリエで絵を仕上げて、個展をして、またスマトラ島へ行く……という人生でした。ですので、子供のころは、父と一緒に遊んでもらったという記憶はほとんどないのです。
「パサールの女」/ 藤田廣志
かれん インドネシアの女性たちの姿を描かれた絵が素晴らしいです。私もアジアの女性たちが大好きで、本当に美しい絵だと思います。

藤田 ありがとうございます。現地の女性たちを描いた絵が多かったようです。人物の周りに描いた背景のマチエールも個性的で、父がお風呂場で洗濯糊と顔料を混ぜて絵の具をつくっていたのを覚えています。家族にも詳しい描き方を教えてくれないほどこだわっていました。
かれん 藤田さんご自身も絵画を学ばれていたのですか? 

藤田 絵は独学です。幼いころに父親からクリスマスプレゼントにクレヨンをもらったこともあり、絵を描くことは好きだったのですが、高校生になると描かなくなって。生まれ育った大阪で一旦サラリーマンになるのですが、自分のやりたいことはなんだろう?と思ったときに、美術館でエゴン・シーレの絵と出会ったのが大きかったですね。

アートに興味が湧いたのが、22歳くらいのときだったと思います。ちょうど世の中はアップルコンピュータが台頭してきた時代で、コンピュータグラフィックの仕事をするようになりました。でも、なかなか自分がしたいデザインはできずに悶々としていて、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンというスイスのグラフィックデザイナーの本を買って、デザインやタイポグラフィをひたすら真似して学んでいきました。
かれん 最初は音楽関係のデザインの仕事が多かったのですか?

藤田 24歳のときに、東京でグラフィックデザインの仕事をしたいと思って、大阪から上京したのですが、CALMというアーティストの CDジャケットのデザインを頼まれて、そのときに絵も自分で書いたことが、今の仕事につながる転機になりました。このCDジャケットの反響で、メジャーレーベルからも仕事の依頼がくるようになりました。今は、みんなCDを買わずに、サブスクで音楽を聴きますが、当時は、CDジャケットのデザインにも勢いがある時代でしたよね。
渋谷ストリームエクセルホテル東急 ロビー階の棚一面には、藤田二郎氏が手がけた、渋谷カルチャーのひとつ“音楽”を象徴する色彩豊かなレコードジャケットが並ぶ。
かれん 今では、空間デザインなどもなさって、イラストもご自身で描かれて、本当に多岐にご活躍ですが、肩書きとしては、アートディレクター?

藤田 アートディレクター・グラフィックデザイナーです。アートディレクターは、イラストレーター、写真家など、さまざまな才能をむすびつけて、ひとつのかたちを目指すチームのディレクションするのが仕事ですが、僕の場合は、ひとりでかたちにしてしまうのが個性ともいえます。そういう意味ではグラフィックデザイナーとしての役割が大きいのかもしれません。
客室には、1920年代から2010年代までの各年代の流行カラーをモチーフにしたアートが。
かれん 伊勢丹新宿店のウィンドウディスプレイや、今日、お会いしている渋谷のホテルのアートワークも担当されたのですね。

藤田 2018年9月に開業した渋谷ストリームエクセル東急ホテルでは、館内のサインやアートワークなどを手掛けました。各フロアそれぞれに、渋谷の街と時代を感じることができるような色とアートを配置しています。
ロビーフロアの壁には、スクランブル交差点をモチーフにした大きなアートワークも設置しました。交差点を行き交う人と光をコラージュで表現していますが、コンピュータ・グラフィックでビジュアルを制作しました。
「生きる喜び」/ アンリ・マティス
かれん 藤田さんの絵は、本当に色が独特で素敵です。特に影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか? 

藤田 実物を見たことはないのですが、色彩でいちばん影響を受けたといえるのは、マティスの「生きる喜び」という絵です。

かれん いい絵ですよね。色の交わりかたがすごいです。マティスは私も大好きな画家です。晩年、病気になってからもベッドの上で絵を描いていたり、切り絵で作品をつくったりして……。

藤田 晩年まで、ものすごいエネルギーですよね。アンディ・ウォーホルも「マティスになりたかった」と言っていたようで、きっと、かれんさんも同じだと思うのですが、マティスやウォーホルのように、新しい時代を切り開いたアーティストに心惹かれるんです。
かれん わかります。私は印象派が好きで、それまでのフランスでは、絵画といえば、宗教画や肖像画が主で、貴族や特権階級のものだったのが、モネやルノワールやミレーなど印象派の画家たちが、一般の、ふつうの人たちを描くようになったのがおもしろくて。まさに絵画の新時代を生み出したのが印象派のアーティストたちでした。

藤田 絵の具って、昔は、持ち運びができなくて、絵は室内のアトリエで描くことしかできなかったのですが、チューブの絵の具が発明されたことで、画家たちが外に出ることができるようになり、印象派の風景画が生まれたといわれていますよね。Macのコンピュータが出てきたときに、新しいグラフィックデザインが誕生したのと似ています。
Bonjour Tシャツ / ヴィンテージのパリの地図にフレームをつけてアートポスターに見立てたプリント。フランス語の出会いの挨拶(Bonjour)を添えて。 袖には平和や希望の象徴"ハト”も描かれています。
かれん 絵が好きな人と絵の話ができるのはとてもうれしいです。今回のハウス オブ ロータスのTシャツのビジュアルもありがとうございました。パリの地図、パリの建物、そしてコート・ダジュールをモチーフした3パターンの絵は、どれも色彩豊かで素敵です。

藤田 パリをモチーフにした2つの絵は、すぐにイメージが湧いて、描けたのですが、コート・ダジュールがとても難しかったです。

かれん そうだったのですか! いかにもササッと軽やかに描かれたように感じていました。
French Riviera Tシャツ / たくさんのパラソルとヨット、南仏の海辺でひと夏を過ごすパリジェンヌ。
藤田 最初に発想した絵に満足いかなくて、そこから煮詰まってしまい、悩みに悩んだんですよ。そこで一度、絵から離れて、箱根のポーラ美術館に行って、ピカソの絵を見たときに、スコンと突き抜けることができて。もう少し力を抜いて描こうと思ったんです。紙パレットに絵を描くと、水を弾くので、線に抜け感が生まれます。それでようやくコート・ダジュールの風を表せた気がします。

かれん キラキラとした南仏の海の光が、絵の具の線の抜け感で表現されているんですね。
Poem Tシャツ / パリのアパルトモンにて、窓辺に黄昏るパリジェンヌ。フランスの作家 フランソワーズ・サガンの有名なフレーズ 「Il n’y a pas d’age pour reapprendre a vivre. On ne fait que ca toute sa vie. /(生きることを学び直すのに年齢なんて関係ないわ。一生できることよ。)」と 袖には、サガンの小説を添えて。
藤田 僕はフランスには行ったことがないのですが、かれんさんは何度も旅されていますよね。

かれん 若いときは、パリに行くと、通りの名前が書いてある地図を片手に歩いていましたね。そして、パリといえばカフェ、そして石造りの建物。パリの通りを歩いていると、建物の窓の向こう側が気になるんです。どういう人がどのように暮らしているんだろうって。そういうことを、今回、Tシャツのビジュアルに込められたらいいなと思って藤田さんにお願いしました。

藤田 窓辺にアンニュイな女性がいる光景も、かれんさんのリクエストでしたよね。かれんさんの原風景のパリをイメージしながら、記憶の中で時間が経った感じもエッセンスとして入れました。

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かれん アイディアを思いつくうえで、まず、どのようなことをされるのですか?

藤田 オーダーに応えて制作するのが仕事なので、発注してくださった方が、どのようなものを希望されているのか、コミュニケーションが大事だと思っています。だから、まずはとことん語り尽くします。そして、たとえば、四角いロゴがいいと言われたら、あえて丸いロゴから発想してみます。

かれん それはどうしてですか?

藤田 なぜ四角のものを希望されているのかを知るために、丸だったらどうなのかを逆から考えてみるわけです。結果的に四角にするわけですけれど、その過程をあれこれと考えてみるのが好きですね。そういうわけで、今回のコート・ダジュールのTシャツも頭から煙がでそうになるくらいでした(笑)。でも、考えることが好きなんですよね。
かれん 仕事上、いつも持ち歩いているものはありますか?

藤田 アイディアを思いついたときに書くためのメモ帳とペン、そしてメジャーですね。メジャーは、たとえば、椅子に座ったときに、居心地がいいなと思ったときに、椅子の高さを測ってみたり、サイズ感がいいなと思った壁の幅を測ってみたり、身体感覚を計測するときに便利なんです。

かれん おもしろいですね。では、仕事が煮詰まったり、はかどらなかったりするときの対処法はありますか?

藤田 掃除です(笑)。ひとつの場所がきれいになったら、成功体験として認識されるようですよ。

かれん わかります! 私も自分に1日のエンジンをかけるために、まずは観葉植物のお世話から始まりますから。終わると、じゃあ、次はこれをしようと思いますよね。
藤田 今、淡路島の一棟貸しの宿の空間グラフィックの仕事をしていて、どこにどのような絵を配置しようか考えて、制作するのが楽しみなのですが、これまであまり旅をしてこなかったので、今後は、もっと旅もしてみたいなと思っています。かれんさんおすすめの海外の美術館めぐりもしてみたいです。

かれん ぜひに、です! パリはモネの睡蓮の部屋があるオランジュリー美術館に行っていただきたいです。パリから鉄道に乗って行くジヴェルニーという町のモネの家もいいですよ。蓮の池は素晴らしいし、家の中には浮世絵が飾ってあったりして、色にあふれています。南仏だったら、ニースのマティス美術館や、マティスが晩年手掛けたヴァンスのロザリオ礼拝堂があります。
ニューヨークも MOMAや METやホイットニー美術館などたくさんいい美術館・博物館があります。展示の仕方、絵の見せ方がおもしろいし、館内で絵を写生している人がいたりして、自由な雰囲気なのもいいです。

藤田 行ってみたいですね。今後は、依頼されて描く絵だけじゃなくて、自分で描きたい絵を描いてみたいとも思っていて。板に色を塗って、立体制作することもはじめてみたいです。
かれん それは楽しみです。藤田さんにとって、Happiness of Life とは?

藤田 仕事が好きなので、仕事を続けていくことが幸せです。そのためには健康でいないと思って、腸活もしています。自分で糠床をつくった糠漬けを食べたり(笑)。

かれん いつかお父さまが愛された南の島にも行かれるといいと思います。きっと素敵なセンチメンタルジャーニーになるはずです。

藤田 僕、虫とかトカゲとかがちょっと苦手なんですよね〜(笑)。

かれん インドネシアの中でもバリ島だったら、素敵なリゾートホテルがあるから、きっと大丈夫!でも、やっぱり、どこでも虫やトカゲはいるかな(笑)。
Profile FJD 藤田二郎(Jiro Fujita)

アートディレクター・グラフィックデザイナー。1971年2月16日大阪生まれ。大阪府立高専機械工学科卒業。これまでメジャー、インディーズ問わず300枚近いCDジャケットデザインを手掛ける。
CDジャケットのほか、書籍のアートディレクションや日本科学未来館プラネタリウムコンテンツ「MEGASTAR-Ⅱcosmos」公式パンフレットのアートディレクション等、その仕事は多岐にわたる。

2018年9月開業 渋谷ストリームエクセルホテル東急 館内サインのアートディレクション、デザイン、アートワーク、アメニティデザインなどを担当。ロビーには渋谷スクランブル交差点をモチーフとした5mに及ぶ巨大なアートワークが常設展示されている。
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2020年7/29~9/22まで 伊勢丹新宿店 本館ウインドウディスプレイを担当。

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