Love of Food

世界中を旅しながら地方の街に伝わる郷土菓子と出合い、その味を日本に伝えている林周作さん。お菓子の冒険家ともいえる林さんに、世界のお菓子事情を教えていただきました。
かれん 郷土菓子をめぐって世界各国へ、なんと自転車で一人旅をされたんですね。驚きました。

林さん(以下、敬称略) はい。2012年の6月から2年半、フランスからスタートしてヨーロッパ、中東、アジアを自転車で横断しました。

かれん 私もいろいろな国を旅するのですが、お菓子って、その国のお祭りや宗教、歴史や文化とも密接につながっていて、興味深いですよね。特にイスラム圏は、お酒を飲まないので、お菓子は男の人がよく食べるものだし。

林 中東のお菓子屋さんはおじさんだらけです。パレスチナ、イスラエル、ヨルダンは、夜12時ぐらいまで菓子店が開いていて、そこにおじさんたちが群がって、すごく甘いお菓子を食べています。

かれん スイーツおじさんがいっぱい!(笑)シュガーハイという言葉があるように、甘いものを食べると元気になるし、モロッコでも砂糖たっぷりのミントティーと甘いお菓子を食べながら、カフェにたむろしているのは中年男性ばかりでした。
――お菓子の甘さの比較文化論!?

林 お菓子の甘さが強いほうから並べると、インド、中東、ヨーロッパ、アジアの順番。インドは砂糖発祥の国で、アーユルヴェーダの思想では甘いものを食べると心が穏やかになるという考え方もあります。アジアの中では中国や韓国よりも日本のお菓子のほうが甘い。茶道の濃茶とバランスをとって生菓子はしっかりと甘さがあります。大陸の国々には、濃茶の文化がないので、その分甘さは控えめです。お菓子の味はその国のお茶の濃さや味とも連動しています。

かれん 自転車で移動していくと、お菓子と文化のつながりや、国によっての違いが肌で感じられそうですね。

林 国境を越えるだけで、経済的に貧しい国と裕福な国で町並みがガラリと変わって、お菓子も変わります。イスラム教圏とキリスト教圏とでもお菓子がまったく違う。おもしろいのは、場所が離れていても、インド、タイ、ポルトガルなど貿易が盛んだった国では、宗教も違うのに遠く離れた国によく似たお菓子があったりするんですよね。食材も別の代用品でつくられていたりして。

かれん 日本もポルトガルからやってきたカステラがあったり、マカオにも同じくポルトガル発祥のエッグタルトがあったりしますね。私は、甘いお菓子があまり得意ではなくて、シンプルなお菓子が好きなんです。今日つくりかたを教えていただいたパパナシも甘すぎなくて、モチモチしていておいしいです。
――ルーマニアの郷土菓子パパナシ

林 パパナシはルーマニアの代表的なお菓子です。東欧やバルト三国は乳製品が豊富で、パパナシもカッテージチーズを使っています。ルーマニアのスーパーでは、びっくりするほど多くの種類のカッテージチーズが売られているんですよ。添えたクリームは、「スムントゥナ」というコクと酸味のあるクリームで、日本では手に入らないので、サワークリームと生クリームを混ぜて代用しました。
かれん 私が、小学6年生でアメリカで生活していたころ、最初に自分でつくったお菓子が、チーズケーキでした。友達もみんな自分流のチーズケーキを焼いて。アメリカもいろんな国の人が住んでいるから、お菓子の味も家庭によってさまざまなんです。チーズケーキの次は、クッキーづくりが流行って、試行錯誤して到達したコーンフレーク入りのチョコレートクッキーは自信作だったな。林さんも子どものころからお菓子をつくるのが好きでしたか?

林 小学生のころからつくりはじめて、高校生のころには、友達に頼まれて、ホワイトデーのお返しで女の子に渡すチーズケーキをつくっていました。パンづくりも好きで、高校2年生からは毎朝3時に起きてパンをつくって、朝7時にはパンが焼き上がるような生活をしていました。
かれん すごい(笑)! 京都のご出身なので、和菓子も身近だったのでは?

林 和菓子は、日本にいるときは、「赤福」を食べるくらいで、自分でつくったことはなかったのですが、ヨーロッパの旅で、家に泊めていただいた人になにかお礼がしたくて、どら焼きや団子をその家のキッチンでつくって、食べていただきました。フランスのアジア食材店で米粉、砂糖、きな粉を買って、鍋とセイロも自転車の荷物の中に入れていたんです。
かれん よろこばれたでしょうね。そして、見知らぬ土地の見知らぬ人の家に泊めてもらうという大冒険に驚きます。今後もまだまだ旅は続いていくんですよね?

林 はい。2019年は世界6大陸の郷土菓子を研究していて、9月はエチオピアに行きました。

かれん アフリカのお菓子ってどんな感じなのか気になります。ヨーロッパのような北の国と南米やアフリカ、オセアニアといった南の国ではずいぶん違うでしょうね。

林 南のお菓子のほうがざっくりしていますね。ひとつの国の中でも南の地方は大らかというか、ざっくりした印象があります。

かれん 南の国はフルーツが豊富だし、新鮮な甘いものがすぐ手に入りますからね。北に行けば行くほど、貴重なフルーツを最大限に美味しくするにはどうすればいいか考えるから、繊細になるのかも。旅の話の続き、また聞かせてください!楽しみにしています。
***

郷土菓子研究社代表 林周作

1988年京都府生まれ。エコール辻大阪フランス・イタリア料理課程卒業。2010年3カ月間ヨーロッパ13カ国の郷土菓子を食べ歩き、帰国翌年に渡仏。2012年6月からフランスから日本に向けてユーラシア大陸を自転車で横断。2016年東京・渋谷にBinowa Cafeをオープンし、世界の郷土菓子を提供。著書に『THE PASTRY COLLECTION』『世界の郷土菓子』。2019年秋に『THE PASTRY COLLECTION』の続編が刊行予定。
ルーマニアの伝統菓子パパナシ(Papanași )の作り方

材料:4人分
カッテージチーズ(裏ごしタイプ) 200g
卵 40g
グラニュー糖 60g
バニラビーンズ(種のみ)1本分
レモンの皮(すりおろす)1個分
レモン汁 15g
塩 ひとつまみ
強力粉 125g
ベーキングパウダー 小さじ1
揚げ油 適量
サワークリーム 適量
生クリーム 適量
フランボワーズなど酸味のある赤いジャム 適量

作り方:
1.カッテージチーズの水気をきり、ボウルに入れる。卵、グラニュー糖、バニラビーンズ、レモンの皮、レモン汁、塩を加えて混ぜる。
2.強力粉とベーキングパウダーを 1. に加え、手でよく練り合わせる。ラップで包み、冷蔵庫で2 時間寝かせる。
3.打ち粉(分量外)をした台にのせ、直径2cmくらいに丸める。
4.170℃の油で中に火が通り、こんがりと焼き色がつくまで揚げる。
5.揚がったボールを皿に山状に重ねて盛り、サワークリームと生クリームを2対1の割合で混ぜ合わせたクリーム、ジャムをかけてできあがり。