Love of Food

ベトナムを愛してやまない鈴木珠美さんは、東京・西麻布の人気ベトナム料理レストラン『Kitchen.』のオーナーシェフ。鈴木さんにベトナム料理の美味しさの秘密、ベトナムの街の魅力をうかがいました。
かれん ハウス オブ ロータスの2020年春夏コレクションのテーマは「インドシナ」。ベトナムの都市ホーチミンがサイゴンと呼ばれていたころのノスタルジックな雰囲気をイメージしました。私が初めてベトナムを旅したのは、もう30年以上前。大学生のころでした。鈴木さんが初めてベトナムに行ったのはいつですか? やはりお料理がきっかけですか?
鈴木 20年くらい前ですね。そのころから料理の仕事をしていたのですが、自分の仕事にオリジナリティがほしくて。料理家の有元葉子先生のベトナム料理の本を読んで、実際に現地で食べてみたいと思ったのがきっかけです。

かれん 実は、私もこの本、持っています! レシピがすごくいいですよね。私もあげ春巻きや牛肉のサラダを何度もつくって、うちの定番になっています。
鈴木 そして、行ってみたら、「ベトナム人になりたい!」と思うほどに、食も人も空気もすべてが好きで、ベトナム愛が止まらない感じになっちゃって。
現地では、婦人会館みたいなところで、通訳の方を介して料理を習いました。口コミで、どこどこのお母さんはこの料理が上手だよと聞くと、その家まで習いにいったり、レストランとも交渉して料理を教えてもらったりして、ホテルに帰るとレシピをまとめる、ということをしていました。

かれん ベトナム料理の何がいちばん好きですか?

鈴木 家庭料理です。ベトナムのお母さんの味。魚の煮付けや角煮など。ベトナムは、あまり一人暮らしをするという風習がなくて、大学で都市部に出てきても、親戚の家とかに下宿して、大家族で暮らすのが定番。だから、食事は、家族みんなで食べるものなんです。
ハウス オブ ロータス 青山店で鈴木さんに料理教室を開催していただいた時。
かれん 私もいろいろな場所を旅しますけれど、アジアではベトナムがいちばんおいしいと個人的には思っています。なぜかというと、まず、お野菜たっぷり。そして、あまり辛くない。おはしを使って食べますし、基本的には、ごはんと汁物とおかずというバランスもいいし、さっぱりした料理が多くて飽きがこないですよね。北から南まで細長くて、いろんな種類のお料理がありますし。鍋も春巻きもバリエーションが豊富です。

鈴木 春巻きも野菜で巻いて食べるので、ヘルシーですよね。
ハウス オブ ロータスの料理教室で作ったフォー。
かれん 鈴木さんがオーナーシェフを務めるベトナム料理レストラン『Kitchen.』で初めて春巻きを食べたときに、一緒に野菜がいっぱい付いていて感激しました。ベトナムで食べるときのようなたくさんの量です。

鈴木 千葉の減農薬の農家さんから、野菜やハーブを届けてもらっています。
かれん 働いていらっしゃるスタッフの方々がみなさん女性であるのも、ベトナムの雰囲気なんです。ベトナムって、市場でも食堂でも女の人がキビキビと働いているのが印象的ですよね。

鈴木 そう。男の人は働かなくて、上半身裸でのんびり将棋を指しています(笑)。うちは、お客さまも9割は女性なので、気がついたらお店の中は女性ばっかりです。
<ベトナム料理はアジア屈指の美味しさ>

かれん ベトナム料理で、まず思い浮かべるものといえば、フォーですよね。さっぱりとした米粉の麺で美味しいです。

鈴木 米粉なので、グルテンフリーです。フォーといえば、牛と鳥が代表ですが、牛は牛骨から、鳥は丸鳥からスープをとってつくられます。最近はシーフードなど新しいものも増えていて、人気のお店は朝から混雑していますね。

かれん おやつというよりも主食に近いものなんでしょうか?

鈴木 朝ごはんとしても、軽食としても、夜食としても食べている人がいます。ホーチミンの「フォークイーン」というお店は、24時間やっているので、私も大好きでベトナムに到着すると直行します。
かれん 米粉をよく使う食文化ですよね。

鈴木 はい。春巻の皮もライスペーパーです。中華料理の春巻の皮は小麦粉でつくりますが、ベトナムは米粉なのです。

かれん 調味料も独特ですが、有名なのは、ヌクマム?

鈴木 ヌクマムは、魚と塩を茹でて発酵させたもので、日本でいう魚醤ですね。ニョムナムの旨味、砂糖の甘味、それに「チャイン」と呼ばれるベトナムレモンの爽やかな酸味で味付けをするのがベトナム南部の料理の特徴です。
かれん ハーブもたくさんの種類がありますよね。

鈴木 ドクダミ、水草、ミントなどですね。ホーチミンがある南部ではフォーを食べると山盛りのハーブが付いてきますが、逆にハノイがある北部ではハーブのお皿は出てきません。フォーの本場はハノイといわれるのですが、とてもシンプルな麺です。野菜の収穫量が多い温暖な南部のほうが、野菜やハーブが身近なんです。
以前『kitchen.』にて打ち合わせをした時にご馳走になった絶品の「バインミー」。
かれん ベトナムは南北に長いから気候も違うし、食べ物も違うというわけですね。

鈴木 北部のハノイは、冬の間、南部に比べてフレッシュなハーブや果物が少なくなります。中国に近いので、薬膳の影響もあり、体を冷やす冷たいものを飲まないし、食べません。

揚げ春巻も南部は親指大の小さな揚げ春巻なのですが、北部のものは、中華料理の揚げ春巻のように大きくて、それをハサミでチョキチョキ切ったものを食べます。中部のフエは、昔、王朝があったので、宮廷料理独特の米粉を蒸したバインベオというむしブディングとか、葉っぱに米粉の液体を入れて蒸したりとか、米粉やタピオカを蒸した料理が多いですね。

北部と南部では住んでいる人の性格も違うと言われていて、真面目で努力家の北部の人に対して、南部の人は、「今日稼いだお金は今日使おう!みんなで飲みにいこう!」という性格のようです。
かれん フランスの植民地時代も長かったので、フランスに影響を受けている文化もありますよね。

鈴木 コーヒーも、フランスパンのサンドイッチであるバインミーも、路上で売っているゴーフルのようなお菓子などもフランス文化の名残があります。フランスそのままではなくて、ちょっとベトナム流にアレンジされていて。

かれん バインミーは、フランスパンに、アジアのおかずを挟むのがおもしろいなと思いました。

鈴木 ご飯にあうおかずを挟むと結構おいしいのです。ポピュラーなのはパテやハム、なます、コリアンダーやミントなどのハーブ類。バインミーの具材は無限大です。さつま揚げを挟んでもおいしいし、豆腐をトマトで煮て挟むベジタリアンに人気のメニューもあります。
ホーチミンの料理教室でベトナム料理を学びました。
かれん 私がベトナムでお料理教室に行ったときに思ったのが、チャーハンをハスの葉っぱに載せたり、プレゼンテーションの素晴らしさです。

鈴木 ハレの日の料理には、花を贅沢に使いますね。野菜もギザギザの波形にカットする包丁があったり、見せ方の工夫があります。お母さんがつくる毎日の家庭料理は、家族の健康と、栄養のバランスを第一に考えているようです。みんな子どものころから、ごはんとお肉と野菜のバランスがいい料理を食べて育っているので、コムビンザン(食堂)で食べている男性ひとり客をみても、バランスよく料理をチョイスしていますよ。

かれん 身体にピッタリ合うように採寸してつくるアオザイを着るために、太ってはいけないと、お母さんが娘に口をすっぱくして言うんですよね。

鈴木 女子高生の制服は、南部はアオザイ、北部は白いシャツにタイが多いです。アオザイは太ってしまうと、つくり直さなければならないですからね。

<後編に続きます>
<キッチンのお取り寄せ>
西麻布にある『Kitchen.』の店舗は、新型コロナウイルス感染症の自粛要請により現在休業中ですが、ご家族で『Kitchen.』の味を楽しんでいただきたく人気の「トムヤム鍋(Lẩu Thái)」と「ハノイのとり鍋( Lẩu gà)」のお取り寄せを4月20日(月)からスタートするそう。※2種類とも3〜4名様分

詳細は『Kitchen.』のインスタグラムにてご覧ください。
<ホーチミンのおいしい!がとまらないベトナム食べ歩きガイド>
鈴木珠美さんをはじめ、日本にベトナム料理を広めた足立由美子さん、伊藤忍さんの3人が案内する現地の食ガイド決定版!ベトナム・ホーチミンの専門店・屋台・おやつなどをご紹介する書籍が発売になりました。
20年以上にわたり現地に通い続けている著者だからこその、新鮮かつ信頼度の高い情報がたっぷり。おうちにいながら、ベトナムへ思いを馳せる楽しい時間に。次の旅先をベトナムに決めたくなるような充実の一冊です。

♢ホーチミンのおいしい!がとまらないベトナム食べ歩きガイド(アノニマ・スタジオ)
*本体価格 1,760円
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鈴木珠美 すずき・ますみ
1999年にベトナムに留学して、ホーチミンやハノイなどで現地のベトナム料理を学ぶ。帰国後、2002年3月に東京・西麻布に『kitchen.』をオープン。一躍大人気店に。『ベトナムおうちご飯』『ベトナム葉っぱごはん』『越南勉強帖―ベトナムについてお勉強してみませんか?』などベトナム料理やベトナム文化についての著書多数。最新刊は『ホーチミンのおいしい! がとまらないベトナム食べ歩きガイド』(共著)。

WOMAN IN LOTUS vol.6 鈴木珠美さんのインタビューはこちら